001.『江分利満氏の優雅な生活』山口瞳
『江分利満氏の優雅な生活』は、昭和37年下期の直木賞作品ですが、僕がこの本を読んだのはその10年後くらいのことで、それ以来、時々手にとっては読み返しています。両親が結婚したのは昭和35年ですが、この本を読んでいると、若かりし両親が働いていた時代の「会社」と「社会」の風潮がよく解る気がします。戦後を引きずりながらも高度経済成長期を懸命に駆けていくエネルギッシュな感じとともに、親の生きた昭和への郷愁を覚えます。自分がサラリーマンになったのは昭和の終わりでしたが、その頃でもなお、当時を引きずっているような場面は会社の中に散見されました。机の上の吸い殻が積み上がった灰皿、10時と3時にお茶を入れてくれる女性社員、高校野球の優勝校を予想する一人100円の○○・・・。(今や全て不適切!)が、そんななかで会社の中の様々な人間関係の機微は、江分利満氏の時代に通じるものがありました。それも今や昔日。 ー真夏日や 昭和も遠く なりにけりー